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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)307号 決定

抗告人

破産者株式会社ミキコーポレーション  破産管財人

橋元四郎平

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告人は、「原裁判を取消す。」との裁判を求め、抗告の理由として別紙のとおり主張した。

判旨 二よつて判断するに、本件記録によると、執行債権者株式会社日本広告社は、債務者株式会社ミキコーポレーションに対する仮執行宣言付支払命令(請求債権は約束手形金債権)に基づき、表記債権差押並びに転付命令(被差押債権は、第三債務者国(東京法務局)に対する供託金取戻請求権)を得、該命令は、昭和五六年三月一八日国に、同月一九日午前一〇時債務者にそれぞれ送達された。他方右債務者は、昭和五六年三月一九日午後四時東京地方裁判所において破産宣告を受け、表記弁護士橋本四郎平が破産管財人に選任され、同月二五日本件執行抗告に及んだこと、以上の事実が認められる。

右事実関係によれば、本件供託金取戻請求権は破産法七〇条にいう破産財団に属する財産となつたこと明らかであり、前記執行債権者の本件債権差押、転付命令は同条により破産財団に対しては当然効力を失つたものというべく、かかる場合には、管財人は、本件命令の取消の有無にかかわりなく、右取戻請求権を破産財団に属するものとして取扱うことができ、本件命令の取消を得ないことによつて管財人の右職務執行が格別阻害されるところがあるものとは認められないから、結局管財人の本件抗告は抗告の利益がないものと解するのを相当とする(東京高等裁判所昭和三〇年一二月二六日決定・高民集八巻一〇号七五九頁参照)。

三よつて本件抗告は利益がないから却下することとし、主文のとおり決定する。

(田中永司 安部剛 岩井康倶)

〔執行抗告の理由〕

第一 原審が昭和五六年三月一七日発した本件債権差押及び転付命令は、債務者たる(株)ミキコーポレーション(以下、債務者という)が同年三月一九日午後四時東京地方裁判所において破産宣告を受けたことにより、その効力を失つたものである。

すなわち、

1 債権者(株)日本広告社(以下、債権者という)は、債務者に対する東京簡易裁判所昭和五六年(ロ)第一九一号仮執行宣言付支払命令に基づいて、東京地方裁判所に対し、民事執行の申立をなし、同裁判所は、同年三月一七日、債務者が第三者たる国(東京法務局)に対して有する供託金(一九、七四一、〇〇〇円)の取戻請求権について、債権差押及び転付命令を発し、右命令は同年三月一九日債務者に、同年三月一八日第三債務者にそれぞれ送達された。

2 しかるに、債務者は、支払不能により、同年三月一九日午後四時東京地方裁判所において破産宣告を受け、破産管財人として抗告人が選任された。

3 債権者の前記1の支払命令にかかる請求債権は、破産宣告前の原因に基づいて発生した債権であるから、右破産宣告により以後破産債権として破産手続においてその満足を図るべく、破産財団に属する財産に対する個別の強制執行は許されず、すでに開始されている強制執行はその効力を失うものである。

本件で差押えられ転付命令の発せられた債務者の有する前記供託金取戻請求権(民法四九六条一項)は、債務者の破産により、破産財団に属する財産を構成することは明らかである。従つて、本件債権差押及び転付命令は、破産宣告前より破産債権につき破産財団に属する財産に対してなされた強制執行であるから、破産宣告によりその効力を失つたものである。

4 なお、本件転付命令は、前記破産宣告当時には未だ転付の効力は生じておらず(民事執行法一五九条五項)、抗告人は、執行抗告の提起期間内(右転付命令は昭和五六年三月一九日債務者に送達されているので、同月二六日までは執行抗告を提起しうる。)である昭和五六年三月二五日に執行抗告をなしたものである。

第二 以上のとおり、原審のなした本件債権差押及び転付命令は、破産法七〇条に照らし、その効力を失つたものであるから、抗告人としては、その取消しを求めるものであるところ、この点に関し、破産財団所属財産に対する強制執行の取消しについては、破産法七〇条により当然無効となるから、裁判所においては、その取消決定をなすことができない旨の裁判例(東高、昭和三〇年一二月二六日)があるが、抗告人はこれに反対であるので、以下に反論を付け加えることにする。

1 「判決の無効」につき、判決の効力は全く生じないにせよ、有効な判決としての外観を供える以上、その効力が及ぶことを前提にした取扱がなされるから、上訴または再審によつてその判決の取消を求める利益があることは、近時の通説が認めるところである。そしてこのことは、本件の如き「決定の無効」の場合においても同様であると思料される。

2 本件債権差押及び転付命令が破産宣告により、上記のとおり、当然無効になるとしても、原審のなした右決定は、取消されない限り、その外観は未だ存在するのであり、その結果、破産管財人たる抗告人の円滑な職務の遂行が著しく阻害され、一刻を争う破産管財人としての職責を十分に果しえない恐れがある。これを本件についてみるに、抗告人が前記供託金の取戻請求をなすにあたつて、無効な本件債権差押及び転付命令が外形上存するため、抗告人が現実にその払戻をうけるまでに法務局における事務手続上若干の時間を要し(東京法務局での取扱例では、最低三日間以上は待たされる)、その間における事務手続上の過誤ないしは被供託者が還付を受けるための供託受諾の届出(民法四九六条、供託規則三七条)等により抗告人が取戻を受けられないことにより損害を受ける可能性も存するのである。一方、無効な右決定が取消されれば、その外形上の存在も消滅するのであるから、右供託金の取戻請求に際しても、遅滞なく現実にその払戻を受けることができ、破産手続を迅速かつ確実に進めることが可能となるのである。

3 以下のように、抗告人には、無効となつた原審の本件決定の取消を求める利益が存し、しかも取消により手続の簡明化が図られる点は、民事執行法の趣旨にも符合するものと思料される。従つて、決定は当然に無効であるから、その取消しを認めることはできないとすることは、実務に即しない処理と言わざるを得ない。

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